日本刀の保存・保管法

  • NHK「ラヂオ・テキスト 刀剣講座」

今回は日本刀の保存・保管方法について詳しく見ていきましょう。

保存法

これは甚だ大切なことで、この方法を誤りますと、いかなる名宝重器も滅茶苦茶になるのであります。刀剣の大敵は火事と錆と取り扱いの粗漏の三つであり、味方は油と乾燥した空気、丁重なる取り扱いの三つであります。
ここでまた、箇条書きにしますと。

一、  錆には赤く錆びるのと、黒く錆びる「チンキン」と称するものと二色があります。このチンキンは見た所左程に思えませんが、深く錆び込むので悪性であります。
一、  手入れ常備品は、(1)目釘抜き用小槌、(2)当て木、(3)小形の水牛か木の槌、(4)打ち粉、(5)錆止め用丁子油、(6)大奉書の拭い紙(これは油と打ち粉用を別にする)、(7)吉野紙、の七種。
一、  ハバキは、手入れ時にはぜひとも抜き取ること。柄やハバキを抜かずに油を引いたり打ち粉で拭ったりすることはよくありません。
一、  ハバキの抜き方。左の方に刃を向け茎の真中頃を左の手にしかと握り、棟の方より親指と人差し指でハバキを押さえて下へ引く様にする。棟と刃の方を押さえて抜くと怪我をすることがあります。
一、  ハバキが錆付いて抜けない時は、ハバキの棟の方に布を当て木の小槌で静かに叩き、また平の方に布を当てて叩くとよろしい。
一、  打ち粉の使い方。かなり柔らかく触る程度に打つこと。終わったならば拭い紙の端で軽く払う。新しい打ち粉は空打をしておくこと。
一、  拭い紙は、元から先へ拭き上ること。先から元へ拭き下げると指を切る恐れがあります。
一、  拭い紙は、余り深く持ちますと指を切ります。
一、  茎の錆際に拭い紙が触れない様にすること。マチ際より下は別におよそ一寸五分くらい茎の方へ拭き下します。
一、  刀身の彫物は、打ち粉や油で汚れますから、時々竹の先を細くして無水アルコールなどで掃除をすること。
一、  打ち粉は、余り度々使わないこと。刀身のために良くないといいます。
一、  長く手入れをしないため、油が凝結して地鉄や刃紋が曇ったのは、アルコールを脱脂綿に浸して拭きます。
一、  古折紙、伝来記録などは紛失または取り違わない様に措置すること。

手入れ法

これは錆を防ぐことと錆びた御刀の手当てであります。平素の手入れは研いでから一年以上経っておりますと、春秋二期に一度ずつでよい様でありますが、研ぎたては半年位の間月に四、五回やります。殊に新規の白鞘は危険でありますから、最初の内は隔日か三日目位には調べて頂きたい。油を取りますにはまず油拭い専用の紙でマチ際を棟の方から挟んで拭き上げます。大体の油を取って、刃の方を向こうにして表裏全面にむらなく打ち粉を打つ。その拭い方は油の場合と同じですが、なお一層軽く拭います。力を入れて拭いたり、そのまま逆に拭き戻すのは危険であります。これを三回程繰り返しますと大抵油が取りきれます。打ち粉を用いません時は二、三回静かに拭って油を引きます。
これは油の新陳代謝で、効果があります。客に御見せした御刀に油を引くには、二回程打ち粉を打って拭いをかけてから引きます。油の引き方は吉野紙を丁子油の瓶の口に当て瓶を斜めにして油を染み込ませ、茎を左の手でしかと持ち、マチ際へ油の染み込んだ吉野紙を当て、人差し指で軽く押さえて表裏全体、光っている所へ薄っすらとむらなく引きます。マチから下へ拭き下ろす様にする、油は余分に引いてあとから拭い紙で程よく拭き取るのがよいと思います。

錆びた御刀の手当て

素人が砥石に当てることは考え物であります。御刀には各刀工独自の刀姿、肉置などがありますので、それを知らずに砥石を当てまして大失敗を致しました実例は沢山あります。
殊に名作物や彫物のあるものは最も注意が肝要であります。彫物には五百年も六百年も前の立派な彫物が完全に残されているのがありまして、これらは実に大切な宝物でありますから、なおさら考慮を要するのであります。

刀剣の収蔵法

刀身は白鞘に納めて拵の方は朴の木の「ツナギ」と取り替えておくと保存上色々な利益があります。普通は刀箪笥に納めておきますが、押入れを利用しますと便利であります。押入れに横に六寸程の間をおいて厚い板で棚を作り、桐の木で枕を作り御刀を並べておきますと簡単でかつ沢山収容ができます。また一号金庫の内部の雑作を取り外して御刀を立てておきますと百振り位は楽であります。
土蔵やコンクリート造の御蔵は、新築間もないのは湿気がありますから危険であります。
要するに日本刀は、国初以来永き伝統を持つところの貴重品でありますから、これを大切に愛護します。そのため取扱いを丁重にして害を防ぎ、収蔵を完全にしてその内に教訓と興味とを感得するものと言い得ると存じます。

(NHK「ラヂオ・テキスト 刀剣講座」より。)

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