日本刀の形態研究(六)-二
第三章 彫刻について-二
○剣巻龍、旗鋒(肥前宗長)
鋭い顔の龍、それに胴体にうねりを見せている迄、肥前宗長の彫刻の特徴です。初代忠吉にそれが多く二代忠廣、肥前初代正廣にもあります。二代忠廣、初代正廣は時代的に吉長の彫刻が多くあります。
○不動尊、這龍(伊勢大掾綱廣)
特に不動の彫刻が得意です。火焔のうねりを見せていることが特徴で、この彫物は埋忠明壽から取り入れたものでしょうか。
○剣巻龍(長曽根興里)
虎徹初期の彫物にて、タガネ深い記内彫の影響があります。やや龍の姿勢が刀の反りと調和しない点があります。
○達磨(長曽根興里)
同じ虎徹の彫刻、上部丸味のある点が目に付く大黒、ダルマ、その他種々なる彫物があります。
○剣巻龍(一竿子忠綱)
龍の顔がおだやかです。故犬養木堂先生にその顔が似ていると知ることが分かり易い見方です。彫物の大振りな点華やかな感じがあります。
○上り下り這龍(一竿子忠綱)
上り龍、下り龍、忠綱の新機軸でしょうか。両面に甲乙のない手の入込んだ彫刻、華やかさの絶頂です。時に助直、國輝にも彫物が見られます。
○額内剣巻龍(本荘義胤)
緻密にして深く額の内へ浮き立たせる剣巻龍は本荘義胤の作です。主として水心子正秀の作刀にみられるもので、うろこが銭を重ねならべたる如く揃う点が分かり易い特徴の一つです。
○額内剣巻龍、波口遊海(本荘義胤)
珍妙な彫物で同様義胤の彫刻です。緻密精巧を極めた美術的価値の高いものです。
○額内剣巻龍、這龍(栗原信秀)
比較的タガネ浅い、小締りしたものが特徴で、やや義胤に近いものです。この他種々なる彫刻があって古い彫の如く宗教心からは遠いものです。
○旗鋒巻龍(月山貞一)
月山には大振りの彫物が多く、義胤信秀程の緻密さはありません。彫物は各種多様に渉っており、精巧なるものや粗製なるものがありますが、どこまでも刀の美感に重点がおかれているのです。
(日本刀要覧より。)