日本刀の外装(下)

  • NHK「ラヂオ・テキスト 刀剣講座」

前回に引き続き、日本刀の外装について見ていきましょう。

柄の中央に目貫と称するものがあります。これは元来目釘でありましたが、後世に至って目釘とは別種のものとなりまして、徳川期に入っては柄を握ったときの手だまりとなり終わりました。この目貫はいずれも名人の彫刻した金属であり、龍虎花鳥種々の意匠を凝らし、最もこれに力を注いだ事は、今日皆さんが都合の繁華な場所を「目貫の場所」と言っているに徴しても知られる事であります。斯く如き言葉は不用意の中に使用されていますが、刀剣から起こった斯く様な造語は沢山残っています。たとえば今日窮地に立って身動きの出来ぬ事を「切羽詰る」と言いますが、これも刀剣から起こった言葉で、切羽というのは図1の(五)の鍔の両側に詰めた金属であり、これを詰めれば鍔が少しも動かず音もしなくなりきちんとするからであります。
鍔は敵刃を防ぐためのものであって、よく鍛えた鉄地に種々の図案や模様を透かしてありますが、これにも芸術的意匠の優れたものがあり、特に名高い作者としては、武田信玄の諏訪法性の兜を作った甲州信家、山城伏見の金家などがあります。
図1の(六)と(九)は小柄笄と併称するもので、これを二所といいます。小柄の方は先に小刀を附し今日のナイフと同様に使用され、笄は頭髪を掻き上げたり、かゆい所を掻いたりする為でありますが、これまた後世には一種の装飾となりました。この作者もまた名高い人が多く、殊に後藤祐乗を祖とする後藤家の作が多いです。

これらの大小を武士は常に外出、旅行等に腰から離さず、もし他家を訪問する場合は玄関で大の方だけ預けるが例であります。預かる方では袱紗で受け取って、大切に広蓋の上に置いて、その客が退出するまで保管をします。もし来客が多勢の時は、間違わぬよう様に番号なり名札を付けて置く事は、今日帽子や外套を預かると同様であります。故に預かった方では、その刀の拵によってその人物の人格、趣味、身分等を批評する事となります。自然と武士がその外装に贅を尽くす様になります。
以上の大小は武士平常の差料で、衣服は羽織袴あるいは着流し、旅装等でありますが、裃、長袴等の如き礼装の時には少しく様式が違ってきます。
即ち図5の如く、頭に金属を用いず、水牛の角を黒く塗り、その上に柄糸を掛けます。これを角頭掛巻といいます。普通の大小は柄糸が頭の鵐目穴を通っていて、決して頭の上を通りませんが、儀式用はその点が違ってきます。柄は鮫皮糸巻、その糸は黒、紺、紫紺等に限られ、鍔は赤銅の模様なきもの、あるいは三所と一揃の獅子龍等の据紋、栗形が角味を帯びて丸くありません。

短刀は武士が平常室内に居る時に差したもので、腰刀、懐刀、鎧通し、馬手差、懐剣、合口、守り刀その他種々の名称があって一定しないが、要するに外装によってその名称が異なるものであります。鍔のないものが多いですが、中にははみ出し、鍔と称する小さい鍔を附けたものもあります。また小柄笄のあるものもあれば、全然ないのもあって、これには別に方式というものはありません。今その様式の世上に多いものについて説明しましょう。
図6は角合口と称するものです。縁と頭を水牛の角を塗って作ってあるので、この名称か起こったものであります。この図は柄白出し鮫、壺笠目貫、鞘黒呂色塗で極めて簡単なもので、男子ばかりでなく婦人の護身用としても使用されました。普通鞘へ小柄笄を附けて目貫と共に三所を揃物とすれば、儀式用にもなります。柄の鮫を金、銀、黒漆等で塗りつぶしたのもあります。

図7は藤丸造りと称して、足利義政の佩用した短刀の外装で、いかにも優美でありますから徳川時代にも相当愛用されて模造が多いです。柄は籐巻きで、鞘は黒呂色塗りに青外の螺鈿、藤の花は銀の切金、レバは金粉、こじりは銀無垢、火打ち袋が附いているのが異様であります。

図8は海老鞘と称するもので、柄鞘共に朱塗りで、印籠刻み風であるのが海老の姿によく似ているので起った名称であります。源義家が佩用したとの説もありますが、少し武張った拵で、徳川期にも随分流行しました。殊に鎧や具足に添えるものとして最も喜ばれました。一見甚だ無骨ではありますが、朱の色と金具との調和が古雅な感じを与えるものであります。金具は主として銀無地でありますが、四分一無地、あるいは多少石目風のものもあります。こじりを大きくして穴を開け、ここに革緒の犬まねきを附けます。下緒はひきめ革であり、黒く塗った革に赤くわらび手のような模様がありますが、徳川中期以降の海老鞘には種々の好みが混同して、必ずしも右に述べた通りでないものが多いです。

(NHK「ラヂオ・テキスト 刀剣講座」より。)

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