日本刀の形態研究(五)-五
第三章 図解による刃文の時代的変換-五
○乱刃(大興五國重)
沸荒く乱れ砂流し喰違い交じり、沸崩れもあり、帽子小丸沸深く返り深い。棟焼付く。
この國重一門にこの作風がある。呰部為家などにもある。
○互の目大乱(初代正廣)
沸最も深く互の目乱、焼の谷へ沸最も深くクッキリと足入る。帽子小丸沸深くして返る。
武蔵大掾忠廣、近江大掾忠廣、二代正廣、初代二代行廣、佐賀吉房、吉信等肥前刀に最も多い。
○中直刃(二代忠廣)
沸深い出来、刃縁放れて、沸足を添える。帽子小丸、返り普通。
二代忠廣にはまた刃縁の沸足のないものもある。姿のよいことは他の反浅き同時代の新刀と異なる。
その他肥前刀全体にこの中直刃がある。豊後高田新刀にもこれがあるが刃縁の沸足は先ずない。刃焼が堅い。
津田助廣の中直は一番肥前刀に近いが、肥前刀の如き刃掾の沸足はない方で、肥前刀よりこの中直の沸が深いものがある。
○丁子(初代國貞)
沸付き小互の目揃いて足太く入る。丁子の風情、帽子小丸。
津田助廣の初期作、初代國貞、越後守包貞、二代包貞の初期作、眞改の初期作等にある。
○湾れ刃(二代康継)
沸付き、浅き湾れ足入り細かい砂流交じり。
初代康継、伯耆守汎隆、他に初代忠吉がある。康継の如く細かい砂流が交わらない、そして地鉄は小杢または杢目。
○浅き湾れ(二代康継)
沸出来、刃締りクッキリとした砂流を交え、帽子下に足入る。帽子小丸砂流交じり返り浅い。
二代康継の特徴は浅い湾れにクッキリした砂流、これは康継特有の地肌にからみて現れる砂流で、帽子にも出ることがある、返りは浅いもの深いもの何れもある。
初代康継、三代四代康継共にこの作風がある。初代は肌立ち、三代四代は肌締る方。なおこの作風は慶長から寛永頃迄の新刀に多い。
○互の目小乱(長曽根興里)
沸にて互の目小乱足特に巾広く入る。帽子小丸返り浅い。
長曽根興正、上総介兼重、三善長道、陸奥守歳長等、内三善長道は刃文乱れ高く刃堅い。
○直互の目(法城寺正弘)
沸出来、直に間を置いての足入り、即ち互の目足が入る、帽子小丸。
津田助廣、助直、越後守包貞、上総介兼重、法城寺貞國、同吉次、長曽根興里などにもある。特に助直、包貞は揃った互の目で鮮やかに焼いている。
○濤瀾刃(津田助廣)
沸最も深く、足入り砂流交じり、帽子小丸、返り尋常。
板倉照包、津田助直、伊勢守國輝、この三工が助廣の如き作風を受け継いでいる。照包は棟が高い、助直は刃が低い、國輝は刃が崩れたものもあり、これ程の鮮やかさがない。
○濤瀾刃(板倉照包)
沸の深い濤瀾刃崩れ刃を交えず、鮮やか、帽子小丸焼巾深い。
津田助廣との相違は照包は乱の斜線の多いこと、俗に言う片山乱と言う刃文、そして互の目足が二つ三つ揃って這入ることです。津田助直がむしろ照包に近い。
○三本杉刃(伊予大掾勝國)
小沸互の目尖り、三本杉風に揃い鮮やか、帽子は乱込み。
焼巾の充分なるものが新刀三本杉に多い。勝國の他に加州家平、田代兼信、田代兼元、新刀壽命、その他新刀関に見る。古作兼元はこんな明瞭なものは少ない。孫六兼元には更に稀です。
○互の目丁子(横山祐定)
匂出来互の目丁子刃が堅く締る。元直の焼出しあり、帽子小丸。
七兵衛祐定その他横山一族、寛文前後の豊後高田ものにある。多々良長幸の初期作品にも見る。
○丁子(石堂光平)
小沸出来丁子刃、一文字の作風を写す、帽子小丸。
佐々木一峯、備中守康廣、紀伊為康、ソボロ助廣、多々良長幸、対馬守常光、石堂是一、三代忠吉、四代忠吉、武蔵太郎安國、信國吉政、福岡守次、同是次等にある。信國、吉政、福岡守次、同是次には逆心のものがある。
○丁子逆心(福岡是次)
小沸出来、丁子逆心にて足入り、帽子、乱込み掛け、刃文丁子は古作一文字と比べて技術的に劣るものではないが本物と摸倣との相違はどうしても免れない。
信國吉政、福岡守次、石堂光平、是一、常光、備中守康廣、ソボロ助廣にある。
○拳形丁子(河内守國助)
沸出来、丁子足入り腰のつぼんだ(焼頭のつぼんだ)蛙子丁子の形式のもの、それが大振りで鮮やかに揃う、元直焼出しあり長い。大和守吉道、肥後守國康、石見守國助、三代河内守國助等にある。近江守久道にも類似のものがあるが拳形丁子というより互の目足入りの感が深い。
○菊水刃(大阪二代吉道)
小沸つき簾刃に菊を配したものにて菊水刃という。山城丹波守吉道、大阪丹波守吉道の一派にある。山城初代吉道は明瞭なる菊水に非ず、簾刃の崩れた出来、濱部壽格一派にもこの菊水がある。
(日本刀要覧より。)