日本刀の形態研究(七)
第四章 日本刀の発展について
従来日本刀の研究は五ヶ伝を中心とした作風の解説が主なもので、それは鑑定という一種の作者判じの方法が興味本位に行われていた為といってよいかと思います。即ち刀身の出来を示すことによって製作者を判定するというのに対して五ヶ伝を中心とする種々の解説は確かに効果的なものがあります。
五ヶ伝とは古来より幾多なる作品を比較的共通性の著しい同国の作品を以て一括する所に得られる観念です。即ち古刀期の作品を以て備前、山城、大和、相州、美濃の五つの伝法に分類し、それを代表的なる作風として次の如く要約するものです。
備前伝は腰反高く、地鉄杢目、刃文は丁子系統。山城伝は華表反、地鉄小杢目、刃文は直刃系統。大和伝は同じく華表反、縞高く地鉄杢目、刃文直食違い刃、帽子焼詰め。相州伝は身巾広く重ね薄目、切先延び地鉄板目、刃文大乱れ沸つきの華やかなるもの。美濃伝は先反り気味、地鉄杢目、刃文互の目尖り刃を交えるものという様な事柄が大体の要量をなしています。この着眼は雑多の作品を以て五つの分類に属し、一約簡明にその概念を得ることにおいて極めてよい方法ですが、それと共に大きい欠点もあります。第一に時代的作風の変換を無視して一つの型にあてはめるので相当な無理がある事です。備前一国に於いてさえ670年の長い時代の経過の中には多くの進展を見せており、単純に備前物は云々と述べてみたところで到底それに該当する部分につきるものではありません。故に時代的な変換は流派の別を以て説明するのが常であり、同じく一文字、長船、畠田、鵜飼、小反り、吉岡一文字、大宮という如きです。また古備前、応永備前末備前なる分類も要するに五ヶ伝に於ける細部の説明に他ならないといえます。一つは系譜的な分類であり、一つは時代的なそれです。
今現在実物を中心として時代的作風の変換について考察がなされる時、最も基準となるべきものは備前刀です。備前に於いては全て日本刀の草創期より天正の古刀末期まで連綿として刀工相次ぎ作品豊富に時代裏銘付の作品を最も多く現存しています。
なお作風の改革の如きも最も顕著に他の国々に率先して行っているのを見ます。
備前一国のみ終始一貫して古代より天正末期に至っているのです。かくして備前の国の作品を裏年号の確実なるものによって整理し縦の系列に並べ、他の四国のこれまた確実なものを備前物の傍に置いて横の線をなす時大体時代の等しきものは同じ傾向を窺うことができます。これによって次の時代区分によるのを便宜と考えます。
- 古備前時代
- 一文字時代 承久~文永
- 長光、景光、國行、國俊時代 弘安~元弘
- 兼光、長義時代 建武~元中
- 盛光、康光時代 応永~長禄
- 勝光、祐定、兼定、兼元時代 文明~天正
- 國廣、忠吉、康継時代 慶長~萬治
- 虎徹、助廣、眞政時代 寛文~元禄
- 正清、安代時代 享保~宝暦
- 水心子、直胤、清麿時代 安永~大正
この分類は勿論便宜上のもので、また作風の変換はこの時期を限って一斉に行われるものではなく、備前の如き進歩的な国にあっては早く行われるのに、避遠の地では遥か後になって始めて流行に追随するのですが、鍛刀界の赴く主流によって大観する時上の様な区分がなされるのです。
(日本刀要覧より。)