日本刀の形態研究 第四章 日本刀の発展について 第一節 古備前時代(古刀前期)-三

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日本刀の形態研究(七)-四

日本刀の形態研究 第四章 日本刀の発展について

第一節 古備前時代(古刀前期)-三

○古備前作品の優秀性
古備前作品は全体としてさしたる非凡な技術により作られたものでもなく、卓越した秘法によって生まれたものでもないのです。しかしこの時代の作品の優秀さは科学者の種々の証明により示されています。即ち地鉄精良にして不純物を含有する事の少ない事が第一です。その理由としては既に材料たる砂鉄優秀なる事によるとされています。また鉄をして悪質な燐、硫黄の如きは高温にて鍛錬する時はこれが混合されると考えられています。古い時代では装置不完全のため温度は極めて低いのが常であったので、この点にあっては遺憾なかったでしょう。また用いる木炭は千古の原始林より得たる炭の為、燐黄を含有する事極めて少ないためでもあったでしょう。(若い木の炭ほどこれ等を多く含むとされる)この様に全ての点において良質の鉄を得るに恵まれていたと考えられます。しかしそれのみが古備前作品を秀でるものにしたのでしょうか。私はそうは思いません。単にそれのみならば唯偶然の結果としてさして尊重にも値しないというべきです。古備前作品を高く評価する理由の一つはそれが千年近くの長い試練を経て今日に伝えられた事になります。刀剣は戦場の用具なので多く用いられ多く作られたであろう事はいうまでもありません。その中戦場の使用に耐え、武将の愛顧を得て今日に伝わったものは極めて一小部分にてそれだけでも価値ある存在という事ができます。結局作者の精神の作品に籠もれるものこそ後代に伝わり得る力でしょう。単なる武器ならばさほど長くは保存されないのです。日本刀が長く武士の魂とされた事こそ後代に存在する唯一の理由なのです。刀は一種の信仰をもって帯したのであり、単なる武器という以上に一種の霊器です。これは日本人が古くより抱いた固有の信念です。だからこそ平和の時代が来ても刀だけは俄かにその関心を失わず、何等かの形にて我々の生活の中に溶け合って残存したのです。

然らば古備前作品は如何なる精神美を持つものかというと、古代人の穢れ無き心が作刀の中に表現されている事といい得るでしょう。その作者達は注文者の要求に応じ父祖より語り継ぎ言い継がれて来た伝法をもって多年の修練を経て鋭利堅甲を断つ秋水を造るべく清進潔斎したのです。単純に鍛えられたと思惟する一刀にも過去、現在、未来へと相連続する人間の力が籠められているのです。

ですからこれを眺め鑑賞しこれを良く使用する事は人々がこれらの中に己を没入してしまう事によって可能となるのです。即ち作者の籠めた努力の中に自分を投じる事によってのみ共感する事ができるのです。古備前の古き刀工達はその素朴な生活の故にかえって後代人の如き心を曇らせる事が無かったのでしょう。直ぐな心、誠実な精神を鍛刀に集中してその作品の中に籠めた事に比類なき名刀を生み、その力こそ幾多の試練を経て後世に輝かしい存在となったのです。

○安綱(大原)「永延ー伯耆」
作品太刀多く、刃長二尺六七寸、地鉄板目顕著に現われ刃文小乱沸深い、沸崩れも交じる、後世作品には直小乱になるものがある。また之に焼落したものを見受ける。作風備前物に近く時代的にも接近していると思われる。

○有綱(大原)「天徳ー伯耆」
太刀多く刃長は二尺六七寸、地鉄板目肌顕著、刃文は小乱締のもの多く匂または小沸出来、直小乱もある。

○包平「永延ー備前」
作品太刀刃長二尺六七寸のもの多く、姿優しく反高い、中には三尺に達するものもあり。樋も掻かれる。刃文小乱足入る丁子がかる。

○助平「寛弘ー備前」
作品太刀多く地鉄杢目立つ。刃文小乱沸つく、丁子刃ある。以上三工は作風から見て同じく古備前時代にても古い所に属すると思われる。

○正恒「永延ー備前」
作品太刀多く、反高い、地鉄板目締のものが多い、刃文小乱または直小乱、小丁子など、また元小乱にして順次直小足りとなれるものもある。

○友成「寛弘ー備前」
作刀反高く姿良い。刃長は多く二尺六七寸、中には三尺に及ぶものあり樋が掻かれる、地鉄大板目現れ刃文は小乱、直小乱または丁子、帽子は沸崩れ、掃掛心のもの、しかし何れもたるみ心である。

○行平「元暦ー豊後」
作品太刀多く短刀も少し見られる。地鉄板目柾交じり、刃文直小乱、直小足入り等、砂流しを交えるものもある。その素朴な作風は古備前と思わせるが、避遠の地にあるものの常として古風と墨守する類ではなかろうか。
短刀作品のある事も豊後で長船初期長光等と同じ時代の様に思われる。刀身に見る小締りした剣巻龍の彫刻もやはりその時代を暗示するごとくです。行平の焼刃はこれを浅く焼くため、研磨の加わるにつれ刃が失われるので行平の焼落と称して特徴の一つとされる。
しかし焼落に類したものが長光にもある事は注意すべきです。
行平に限らず総じて「 」の年代は伝えられるその年代を記した留まるゆえ、本文の観察時代とは一致しないものがあるご了承を。

(日本刀要覧より。)

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