日本刀の形態研究 第四章 日本刀の発展について 第七節 国廣、忠吉、康継時代(新刀)-三

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日本刀の形態研究(十一)-三

日本刀の形態研究 第四章 日本刀の発展について

第七節 国廣、忠吉、康継時代(新刀)-三

○五ヶ伝の勃興
慶長、元和の相州伝全盛の時代も寛永頃から次第に各伝の勃興となって現れて来ます。この事は相州伝の次第に飽かれたる為各々新機軸を試みた事になるのですが、それと共に自己の伝法を意識して造るに至っている訳です。保昌の末流という仙台国包が寛永初年より大和伝を以て作品を残しており、南紀重国もやはり大和伝の系統を引く作者です。美濃伝三本杉は田代兼信等によって試みられ、佐々木一峯、石堂是一等によっては一文字丁子が目標とされるに至っています。

更に古刀期刀鍛冶王国の観のあった備前は天正籐四郎祐定以来天災によって刀工滅亡して久しくその跡を絶ったのがこの頃七兵衛祐定によって復活を見、備前伝の中末備前の作風が復活する事になったのは一般時勢の傾向を窺う事が出来るもので特筆に値するものというべきです。

今この期の全般的な大勢に付いて見れば初期相州伝の全盛と後期より次第に勃興する五ヶ伝復活の気運との交錯の中に漸次次の中新刀といわれる寛文、延宝期への進展にまで至り行く経過という事が出来ます。この期の刀剣について見れば茎の銘字に古刀に特有な幾分稚拙の趣を残しているのと同様刃文に於いても次期中新刀のそれと較べれば未だ整わざる趣があり、これは所見の場合は地鉄も刃文も古めかしい外貌を呈するものです。中新刀の人々が暢達の銘字を切っていると比較すれば直ちにこの事は納得出来ると思います。

一二の例として大阪新刀を見るに初代国貞と眞改、初代国助とを比較すればこれの事は一層明瞭でありましょう。
最後に新刀期に入って、西方の肥前が俄かに鍛刀界に主要なる地位を占めるに至った事を注目しなくてはなりません。初代忠吉が埋忠門より出でて山城伝の直刃を伝えて以来一族門葉栄え、新刀に独自の地位を占めるに至ったのです。江戸、大阪と相並んで一大分野を占める肥前は鍋島家の被護と海外貿易の中心として栄えた長崎を控える事によってこの繁栄が来たのも平和時代の一現象と見られるべきでしょう。

○繁慶「元和ー武蔵」
作刀地鉄弱く大板目立ちて肌割など交じるのが特徴、刃文大乱沸最深く肌にからみて砂流踊る。(おどるとは刃味肌が板目なるためで、柾目の時は流れるという)かかる作風は古刀期に於いては則重に見るもので古拙の味であるというべきものdす。茎尻丸味ある刃上がり、刃間深く鏟目は表勝手下がり裏勝手上がり棟は検垣等極めて異色です。

○兼若(甚六)「元和ー加賀」
作品刀多く、脇差、平造脇差もある。初期作品は地鉄板目、刃文互の目乱尖り心、志津の如く、後兼若独特の箱乱に移る。

○氏房(飛騨守)「慶長ー美濃」
刀多く身幅広くして切先延びるもの多い。脇差、平造脇差もある、地鉄板目、刃文大乱烈しい出来にて村正を思わせる。

○吉道(丹波守)「元和ー山城」
地鉄板目、刃文乱、大乱砂流入り相州伝横溢の作風。帽子は中たるみにて一名三品帽子という。晩年に至り簾刃、菊水刃を案出したといわれていますが、その明瞭なものは多くが二代以下です。

○忠吉(初代)「慶長ー肥前」
作品刀多く脇差、平造脇差もあり。地鉄小杢目、刃文中直刃に喰違い沸崩れを交えるものが多い、又乱刃あり沸深く足入り太く止まる。初期作に互の目乱匂締り間兼定の如きものを見る。刀身に名壽、宗長の手に成る剣巻龍、不動尊等の彫物がある。

○信高(伯耆守)「慶長ー尾張」
作品刀、平造脇差等身幅あるものが多い。刃文は互の目乱、湾れ乱れ刃にて若狭守氏房に似る。

○国包(山城大掾)「寛永ー陸前」
作品刀、脇差、平造脇差共に多い。鎬高く、地鉄柾目、刃文直肌にからみて砂流、又は互の目揃う乱刃、帽子は焼詰風になる。

○国貞(和泉守)「寛永ー摂津」
作品刀、脇差、平造脇差。刀反浅いものが多い。地鉄小杢目細美、刃文乱刃、小乱刃、又は小互の目揃って一見丁子の如きもので何れも匂沸深い。帽子は小丸。特に額内剣巻龍の彫物を見るが中々見事なものです。

○国清(山城守)「寛永ー越前」
刀多く姿よい、脇差もある、地鉄は杢目粒立つ、刃文初期は互の目乱れにてやはり堀川門を思わせるものがある。後中直刃になる。不動尊、剣巻龍の彫刻を見る。

○国路(出羽大掾)「寛永ー山城」
国廣刀中最も師の影響著しい作者、作品刀、脇差平造脇差何れも多い。地鉄杢板目、刃文は互の目乱にて国廣より華やか。時に不動尊などの彫物を見るものがある。

○国重(大興五)「寛永ー備中」
作品刀、脇差共にあり、地鉄板目、刃文互の目大乱荒沸つき棟焼多い水田派独特のもの。

○国廣(堀川)「慶長ー山城」
初期作は日州古屋打は互の目乱匂締りて相州廣正の如きもの、晩年山城へ移り湾乱刃砂沸崩れを交えた新刀の相州伝に移る。彫刻多く図柄は不動尊、達磨、韋駄天、剣巻龍など多様。

○安定(大和守)「慶安ー武蔵」
刀反浅いもの多く脇差もある。地鉄小杢目、刃文湾乱れ、古来業物として名高く茎に金象眼試銘を多く見る。

○康継(初代)「慶長ー武蔵」
作品刀、平造脇差が多い。古作模造に長じ相州上位の作品を造る如く。自作は地鉄杢目立ち、刃文浅い湾刃が多い。時には皆焼を見る事もある。彫物は剣巻龍、不動尊等があり同国の彫刻家記内知相の手に成る。

○正俊(越中守)「元和ー山城」
作品刀、脇差、平造脇差等。作刀身幅広く、地鉄板目、刃文直乱、砂流尖り刃を交える相州伝横溢の作風。

○正則(大和大掾)「元和ー越前」
作品刀多く脇差、平造脇差もある。地鉄小板目強く、刃文湾小乱刃、晩年は互の目揃いたるもの又は直に浅い湾交じる。

○政常(相模守)「慶長ー尾張」
作品短刀に限られる如き観がある。地鉄は板目、刃文直尋常、時に不動尊などの彫物あるを見受ける。

○是一(武蔵大掾)「慶長ー武蔵」
作品刀、脇差。一文字風丁子を最得意とするものだが、作刀反浅く、地鉄、刃中、鎬などに柾目肌を見る点が古作一文字と異なる点の一つです。

○輝廣(肥後守)「慶長ー安藝」
作品平造脇差が多く、刀は稀です。刃文は焼の面丸く、焼頭は尖る風の互の目乱れ、湾乱風に見えるものです。

○貞国(肥後大掾)「慶長ー越前」
平造脇差最多く刀は少ない。刃文は濤乱刃など康継に似た作風。額内剣巻龍、梅などの彫物を多く見る。

○金道(伊賀守)「慶長ー山城」
刀、平造脇差、作刀身幅広く、地鉄板目、刃文乱刃砂流入り、帽子は中たるみ所謂三品帽子といわれるもの。

○明壽(伊賀守)「慶長ー山城」
作品短刀多く刀は稀。平造切刃などもあり全て造込み手際よく、地鉄は小杢目、刃文直又は小湾刃にて初代忠吉の初期作に似る。彫刻は額内に不動、這龍などを彫るがその手腕は素晴らしい。三ツ棟にて護摩箸、腰樋などあるものが多く、素剣、梵字、剣巻龍など亦洗練された作風を示している。

○重国(南紀)「元和ー紀伊」
刀、脇差、平造脇差、作刀鎬高く地鉄は板目に柾交じり刃文直喰違刃、帽子焼詰にて大和伝の作風です。時に互の目乱相州伝風のものを見る。

○忠廣(近江大掾)「慶長ー肥前」
この工は時代には寛永より元禄に至る六十年の長きに及ぶ。姿よき刀、脇差が多い。地鉄小杢目細美、刃文は中直、中直喰違い他に乱刃湾刃もあるが、肥前刀特有の焼谷の匂沸深いものです。刀身に同国の彫物師宗長、吉長の手に成る剣巻龍の彫物を見るものがある。

(日本刀要覧より。)

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